京都

11月 24th, 2007 by admin

 京都行ってきました。

 と言っても観光を全力にこなそう、という趣旨ではなく、大阪に会社の用事で来たので、そのまま帰るのは悔しいというもったい無いの精神ですが。

 まあ主目的は安彦良和展でした。

 筆致も豊かに、絵柄も多彩というのはまあ言うまでもないですが、ご本人が書かれた小説があるのを初めて知りました。それも民族系ばかり。

 各国の民族的な特色を元に描かれた絵は、いわゆるピタッとしたSF的な服とはまた別で、生気溢れるまた違うスタンスの絵で、生命力と躍動感が安彦氏の絵には常に見えますが、それが殊更に満ち溢れているように見えました。

 そう考えるとガンダム系は有名ですが、まあ若干氏には窮屈な気もしました。

 そして矢張り年代、作品数を考えると多作ですし、多忙なのが伝わってきますね。歩みを止めず、常に前進しているのには実に感服しました。

 と、そんな印象を抱きつつ、外へ出ると白髪の男性とすれ違い。

 恰幅も顔も心なしか拝見させて頂いている顔に似ている。

 4時30分頃で、講演会が開かれていた筈なので他人のそら似かもしれませんが、もしやあれは安彦氏本人だったのかなあ、と勝手に思い、僥倖だなあと思ったりも。

 まあ完全に別人でも良いんですけどね。でも本人だったらラッキーだなあ。

 で、4時30分にそのまま帰るのも何なので、京都をぶらつこうという事に。

 しかしスーツ一枚を引っかけて、朝の9時に急いで豊橋を出てきた都合上、京都の空は思った以上に冷たく、コート一枚を羽織ってくれば良かったと後悔。

 そして何よりも時間を増す毎に溢れかえる人。人。人の群れ。

 そう、世間は三連休の初日かつ、紅葉シーズン真っ盛り。まさに人でごった返すのは明白の状況なのです。

 観光案内に数時間でたどり着ける場所を聞くも、一体そこがどこで、どういった状態なのかも想像が付かず、ライトアップと言われても心躍らず。

 新幹線もほぼ立ち詰めで、かつ会社のイベントもホテルでの会食で座れず、且つその後の展覧会も立って見るのが普通。

 僕自身は左程構いませんが、何より後輩を休ませるのが先決と、喫茶店を探す事にします。しかしながら考えは皆同じと見え、駅周辺をうろつくも、喫茶店はどこも満員御礼。十軒ほど肩透かしを喰らい、休む場所を求めさ迷い、結果脚が疲れるという本末転倒の状態。

 結局、駅から直結ではない京都タワーまで行き、一息を入れ携帯を弄り、少しばかり京都らしい店を探すも、なかなか決まるものでもありません。

 じりじりと日が落ち、さらに温度が下がれば、最早観光という選択肢はまっさらになり、夕食に一縷の僥倖を見いだすのみになりつつあります。

 となれば夕食にかかる責任は重大。まったくプランを立てずに何となく付いてきた後輩の二人は、人混みと今日の移動の疲れからか言葉も少なになりがちで、どうにも肩身の狭い思い。

 どうにか駅周辺で二、三軒見繕い、駅に舞い戻ると、様相はまた変化していました。喫茶店を探していた時よりもさらに人の数が増しているのです。

 その数、ざっと二倍は居るでしょうか。帰宅の途に付くか、若しくは今宵の宿を求める人の群れか、はたまた、我々の如く夕食を求め集まった観光客か。

 燈火に集う蛾の如く、外套を羽織った人の群れが犇めき、エスカレータに乗るのにも警備員が一定時間の制限を掛けるほど。

 人が居なければあっという間に辿り着ける、僅か数十、数百メートルを、何倍という時間を掛けて歩く状況は、東京のそれでも、況してや僕の故郷、北海道で体験しているそれとも比べ物になりません。

 そんな状況下、11階のレストラン街に行こうという人の数たるや、まさに考えるまでもなく、押しくらまんじゅうをして詰め込まれるとて、その中に入る事すら至難の業。エスカレータを使うも、人の多さを考えればそれもまた避けるべき事。

 結局、11階のレストランを諦め、他の箇所を探すも、「12人待ち」「15人待ち」と言った様子。とても入れるものではなく、途方に暮れます。

 仕方無く、タクシーの運転手に飲食店の在り処を尋ね、連れて行って貰うという選択肢を取ります。

 何処に行きたいか、と尋ねられますが、決まっている訳も無く、運転手の器量に委ねる事に。

 暫しタクシーに揺られ、着いたのは先斗町という場所。

 人混みは容赦なく、袖を触れ合う事に気を遣う程の余裕も、そして空間もありません。そして、通りに入って驚愕。

 実に狭い。その道幅、実に人二人が通れる事がせいぜい。

 その中を燈火だけを頼りに歩きます。

 路地裏にも似たその空間、路地裏と違う点は光がある事。

 左右を見渡せば、鰻の寝床の様に店が犇めき、店と店との間に隙間がありません。小綺麗に見える店の数々は、歴史を感じさせつつ、それでいて古臭さは無い。

 そして、途切れない。行けども行けども店が続く。

 前にも、後ろにも、横にも人。狭い路地に人が芋洗いの様相を呈し、ざわめき、ゆっくりと進みます。

 こんな光景は見たことがない。

 故郷の北海道ではあり得ず、また近年の雑居ビルの密集にも見られない、和を感じさせる光景。

 人々の合間には着物姿のうら若き女性の姿もぽつりぽつり見受けられ、それでいて七五三の様に着物に着られておらず、着こなす姿は艶やかで、ほうと溜息が出るほど。

 日本に住んでいるつもりでは居たけれど、こんな光景を想像だにせず、数時間前に駅をさ迷う中では思いもしなかったあまりに日常とかけ離れた光景に、此処がそういえば、日本である事を深く実感。

 否、京都である事を深く実感。

 しかし、歩きずくめで既に脚は疲弊し、幾ら昼に会食でご飯を詰め込んだと言えど、時計を逆算すればそろそろ決めて為舞わねばいけない時間。

 手持ちも頼りなく、予算と相談すれば、まあ三千、四千までしか出せないなあと言う所帯じみた悩みもあり、結局葱屋平吉という店に入ります。

 葱を売りにした店、という前知識など微塵も無しに、テーブルが開いていたのと、値段との相対を考え、入店。

 そしてお通しを突き、酒を頼もうとメニューを見るや否や、値段表を見て驚愕。

 鍋一人前三千円也。

 じっと財布の中身を見れば、実に五千円ほどしかあらず。額に汗が滲む。

 結局、三人居るのだから、高すぎない値段の物を突けば良いという結論に至り、数品を頼む事に。

 そして、どかっと机の上に何かが置かれます。

 薬味、と言われたそれは山と盛られた葱の山。こんもりと木で出来た器からこぼれ落ちそうな程に、緑色の葱がつやつやと濃緑色を輝かせています。

 成程、葱の店だものなと頷き、運ばれてきた豆腐の上にぱらりと振り掛け、啄ばむ。箸で簡単にほぐれますが、器が深いのもあり、随分と深くまで箸が届きます。そして、とろりとした薄い琥珀色のあんかけと、ぱらりとほぐれる乳白色の豆腐とが交じる。

 酒に弱い性分で、日本酒は確実に潰れるし、帰りの事を考え敢えて弱そうな酒を頼みましたが、この薬味と豆腐が実に美味い。美味すぎて、目の前に置かれた弱い洋酒をとても強く後悔。残念。

 そして、運ばれてくる料理のほぼ全てが美味い。雰囲気、立地というのもあるのでしょうが、実に味に気が利いている。

 正直な話、名古屋の味は僕には少し濃すぎ、赤出汁は既に苦手の領分に足を入れていますが、この料理店の味噌は上品で、しつこくなくさらりと溶ける。

 口々に、日々呪いつつ口に糊している料理との差をこれでもかと僕らは語りました。そして、最後に葱の黒焼きを注文。

 しかし、玉葱が御薦めだと、一旦注文したにも関らず店員が卓子に来て言うではありませんか。

 半分は店側の理由、半分は真に御薦めを食べさせたい理由と見ますが、まあ此処で騙されても別に構わないと言ったふうに、玉葱の黒焼きを注文。

 一緒に来た一人は、電子レンジで温めた玉葱と何が違うのだろうと息巻いています。そしていざ玉葱の黒焼きが運ばれてきます。

 四つ切りにされ、白い腹を見せた玉葱が分厚い皿の上に載っているという状況。

 黒く焼けた皮を外側に、塩と味噌の二つが運ばれてきます。しかし、箸は出にくい。それもそのはず、ただ表面が焼けた玉葱を四つ切りにした訳ではあるまいな、と考えている故の行動。しかし、先程の電子レンジを引き合いに息巻いていた男が、すっと箸を出します。

 と同時に驚いたように美味しいと言うではありませんか。

 むむむ、と僕も箸で突く。火の通らない玉葱は苦く、辛く、そして目に痛い。日々食堂で食べる玉葱は、火加減も曖昧で、通り過ぎたり、生焼けだったりと値段に見合った出来。その度に値段を理由に諦念を抱きますが、この玉葱、違う。

 嘘のように柔らかく、甘い。それも苦みの雑じった甘さではなく、どこか懐かしい甘み。味噌を付けても、塩に付けてもこれが非常に美味しい。

 一旦手が付けばあっという間で、嘘のように早く玉葱は皿の上から忽然と姿を消していました。まさに店の名を冠するだけはあった訳です。

 こうまで美味しいと、鍋も食べたかったなあ、と後悔する訳ですが、まあどう転んでも財布は首を縦に振ってはくれません。それだけを心残りに、店を後にしました。

 人混みは店を出たときにはまばらになっており、足早に駅へと急ぎます。

 京都駅へと急ぐ電車の中にも、麗しい着物姿の女性がすらりと居る訳で、目を奪われます。成程、こう云った風景も悪くないな、とぎゅうぎゅうに押し詰められ、立ち位置すらままならない最中で余裕をかましてみたり。

 そして京都駅に着き、新幹線で京都を後にしました。

 寺も神社も行かず、ぶらりと立ち寄った中でこうも面白い物に出交すとは。成程京都は面白い街です。今度は少しばかり調べて行ってみたいものです。

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